校長式辞 第75回卒業証書授与式

75期生が卒業して一週間が経ちます。本日公開された卒業式の投稿の中にもありましたが、多方面より『本年度の校長先生の式辞は素晴らしかった』『どうか校長先生の式辞を掲載していただくわけにはいかないか』との声をいただきました。
そこで内村校長先生にお願いしたところ、快くご許可をいただきました。
以下に全文を掲載致します。大蔵校舎、清田校舎を思い出しながらお読みいただければ幸いです。

--------(式辞)--------

ここ清田の丘には、卒業生を祝福するかのように、ほのかに春色の新しい生命の息吹が香っています。この佳き日に、福岡県教育委員会をはじめとするご来賓、そして保護者の皆様のご臨席のもと、福岡県立八幡高等学校第七十五回卒業証書授与式を挙行できますことは、卒業生はもとより、職員一同、大きな慶びとするところであります。

ただ今、本校第七十五回卒業生、総勢二百六十一名の生徒の皆さんに、高等学校の全過程を修了した証として、栄えある卒業証書を授与いたしました。入学時からの約一月半の休校に始まったパンデミックの時代において、人に近寄れない、マスクで表情も読み取りにくいという、成長する上でとても大切な、人としてのコミュニケーションが阻害される中、健気に精一杯に高校生活を送ってきた皆さんを、大変頼もしく、また、大いに誇りに思います。三年前にマスクの上に見えた、おぼろげな夢をはらんだ皆さんのあどけない眼は、今、しっかりと確実に夢を描く澄み切った瞳に成長しています。本当に、本当によくがんばりました。ご卒業、誠におめでとうございます。

本校第七十五回卒業生である皆さんは、おおらかでさっぱりしていながら繊細、そして全力で生徒を想い温かく寄り添う野中学年主任が力強く率いる三学年の先生方とともに、「立志」~「志を立てる」という学年テーマを掲げ、この三年間を送ってきました。

一組。豊かな引き出しを持ち、理詰めで誠実に毒づきながら、優しくしたたかに進路と人生を語り励ますジェントルな担任が、無邪気で気ままな男子と真面目で賢明な女子とが見事に調和し、知性と個性で創り上げた文化祭の創作劇に象徴される協調性豊かな生徒たちをまとめた「誠実に」がテーマの横山俊道クラス。

二組。溢れる思いと愛情で生徒を包みこみ、それぞれの個性を伸ばそうとする、ポジティブの押し売りを展開するイベント好きの担任が、自由人もいれば大変な頑張り屋もいて個性がはじけ輝く、ノリのよい明るく活発な生徒たちを、高い品格の集団として束ねた「やってみなはれ」がテーマの横山昭子クラス。

三組。勉強熱心でひたむきな努力を誇り、静かで穏健、豊かな知性が輝く生徒たちの集団を、見事な歌唱力を持つ担任が、熱過ぎるほどの情熱で、粘り強く力強く、また緻密な計画を持って、ぐいぐいと引っ張って、生徒たちの前向きな意欲を倍増させた「海へ~顔晴れやかに顔晴る」がテーマの田所クラス。

四組。初めて持ち上がってきた三学年担任。懸命に勉強しながらも、常に穏やかで感情の起伏が少なく、時にユーモアに満ちた一言を独りで淡々と口にする担任を、悩みを抱えていても楽観的に見える生徒たちが穏やかに見守る、超明るくノリがよく、笑顔溢れて無邪気にはじける「真っ向勝負!!」がテーマの福野クラス。

五組。見かけの怖さとは裏腹に、常に丁寧な言葉遣いと細やかな心遣いで生徒に寄り添い、決定から実施まで十日間の修学旅行も、スタンド復活の体育大会も、ともに主務として覚悟を決めて大活躍した担任が、冷静沈着、こつこつ堅実な努力を重ねる男女仲のよい生徒たちを、きちっとまとめた「正夢」がテーマの阿部クラス。

六組。どこにいてもわかる大きな声で、思ったままを熱心に何度も語り続けながら、実は真っ直ぐに生徒を見て大変面倒見のよいツンデレな担任と、天真爛漫で個性的な女子たちに少ない男子が圧倒されながら、みんなで冷静に担任を観察して温かく見守った賢明な生徒たちとが、豊かな和音を奏でた「実り」がテーマの毛利クラス。

七組。ウサギの絵が得意、情熱的でユーモアに溢れ、生徒たちをこよなく愛する個性的な担任が創る小長光ワールドを、役者揃いで明るく活発、前向きで果敢に物事に挑戦する個性豊かな生徒たちが、みんな仲良くおおらかに心地よく優しく楽しんでいる「思い込みが未来を開く」がテーマの小長光クラス。

「立志」学年は、この七クラスが見事に調和し、一つになって八幡高校を創ってきました。

全国約百万人の高校三年生は、コロナの渦中で、様々に制限され、「そもそも学校とは」という学校の存在意義を問われるような時代を生きました。その中で、どれだけ、できる最大限の努力を継続したか、どれだけ自由にしなやかに発想して行動を起こしたか、どれだけ夢を描いて果敢に挑戦したか、によって、同じ十八歳の充実感には大きな開きがあると思います。皆さんは不自由や制限をただ嘆いて終わるのではなく、むしろ不自由の中でこそわかる本当の自由を理解し、高校生活に精一杯に取り組み、自身の可能性を最大限に伸ばす努力をし続けました。そして一、二年次には経験したことのない「三年ぶりの」と冠することの多かったいろんな行事をも、豊かな創造力で誠実に創り上げ、後輩たちに確かな道標を残してくれました。   

困難な時代にあっても、叡智と情熱で、しなやかにそして逞しく、自分たちで、学校と自分の人生を創っていこうとする姿を通して、入学式の時にお願いした通り、皆さんは学校を「家族」にしてくれました。   

次は日本を、そして世界を「家族」にするのです。

私の妻が最初の子どもを身ごもったときに、出産までの数か月、夜眠る前に妻のお腹に手を当てながら祈り続けた言葉があります。幸せな人生を創るのに必要なものとして五つのものを二十代の時に妻とともに真摯に考えました。それは、「運」、「健康」、「愛」、「知恵」、「勇気」です。そして何者かに、「どうか、運と健康と愛と知恵と勇気をお与えください。」と祈り続けました。一つ一つの言葉は違っても、皆さんも同じように温かい愛と祈りを真っ直ぐに受けてこの世に誕生し、ここまで成長してきました。改めて教員になってからの数十年を振り返ると、生徒たちに、そして皆さんに訴え続けてきたことは、どれもこの五つに該当します。世界を「家族」にするとは、今度はこれらを周りの人たちに与えられる人間になるということです。

「ノブレスオブリージュ」・・耳にしたことがあるでしょうか。「ノブレスオブリージュ」とは「高貴なる者の義務」という意味です。そして「社会的に影響力のある人間は、より多くの負うべき責任や義務がある」、「恵まれた人は他者に対して進んで何かしら還元するべきである」という考え方 です。

今この「ノブレスオブリージュ」という言葉を皆さんに投げかけたのは、皆さんが百年の伝統を誇るこの八幡高校で学び、「誠」と「鏡」の薫陶を受けながら、誠実に人を思いやり、知を磨くことのできた、恵まれた人間の一人であるからです。この八幡高校で磨き続けた徳義と叡智は、決して失われることのない一生の財産であり、その財産を身に着けた恵まれた皆さんには、それを社会に還元する責務があるということです。

これからの社会をつくり、日本を支え、世界をリードしていくのは皆さんです。歴史を創っていくのは皆さんです。私たちは人生の長さは自分で決められませんが、人生の幅と深さは自身で決められます。「誠」と「鏡」を道標として、皆さんの進むそれぞれの分野で、解なき問いへ挑戦し続け、「運」と、「健康」と、「愛」と、「知恵」と、「勇気」を、周りの人たちに与え、豊かで幸せな日本を、そして世界を創っていってください。それが「格別の時代」を生きた「格別の立志学年」である皆さんの「ノブレスオブリージュ」です。

心からご活躍を祈念します。

高いところから恐縮ではございますが、保護者の皆様に一言申し上げます。お子様の御卒業まことにおめでとうございます。一言で卒業と申しましても、健康への気遣い、勉学のこと、友人のこと、進路のこと、部活動のこと、と実にいろいろな悩みを抱えての三年間であったと思います。どんなときにもお子様を支え、そしてお子様を心の中で深く深く抱きしめながら、今日まで慈しみ育んで来られました保護者の皆様に、心からの敬意を表しますとともに、本日まで本校を信じて、ともに教育の歩調を合わせていただきましたことに、教職員を代表して心から感謝し、お礼申し上げます。本当にありがとうございました。

最後になりましたが、本日ご臨席を賜りました県教育委員会、誠鏡会、PTAをはじめ関係各位の本校に対するなお一層の御支援・御鞭撻を心からお願い申し上げますとともに、ご出席の皆様の御健勝と、そして、「志」を立て、「誠」と「鏡」を胸に、世界を家族にすべく「ノブレスオブリージュ」を実現していくであろう八幡高校第七十五回「立志」学年卒業生の皆さんの洋々たる前途を祝し、式辞といたします。

令和五年三月一日

福岡県立八幡高等学校 校長 内村 尚俊